常設展示室に中世石造物のコーナーを新たに設置しました。展示しているのは、平成20年秋の特別展で多くの観覧者から「見事な中世の造形」と好評を得た薮田薬師中世墓の石塔群です。
 これらの石塔群は、灘浦海岸一帯に産出する「薮田石[やぶたいし]」と呼ばれる、軟質で白く発色する微粒砂岩を石材としています。薮田石の石造物は、鎌倉時代末期から室町時代にかけて、氷見を中心に、立山・黒部・五箇山まで、越中一円に分布しました。


 薮田薬師中世墓出土宝篋印塔
 (高さ75cm)

 元々は「宝篋印陀羅尼経」を収めるための経典供養塔として造られましたが、後に墓標や供養塔として造立されるようになりました。日本では鎌倉時代以後、一定の形式が成立し、各地に造立されています。

 構造は、基礎・塔身・笠・相輪の四部分から成ります。鎌倉時代の半ばから基礎の形状の異なる地方差がみられ、関東式・関西式の二つに分けられますが、氷見地域では今のところ関東式のものは発見されていません。

 薮田石製の代表的なものとしては、市指定史跡坪池シャンドンの塔があげられます。また、薮田薬師中世墓からは、三基の完成塔が出土しており、脇方谷内出中世墓では二基分の部品が出土しています。いずれも15世紀頃のものと考えられます。


 薮田薬師中世墓出土五輪塔
 (高さ86cm)

 五輪塔は、密教の教えによる宇宙の生成要素である地・水・火・風・空の五大を、それぞれ方・円・三角・半月・団形にあらわした五輪図形を立体化したものです。

 平安時代後期に確立しましたが、氷見地域では室町時代以後のものがほとんどで、水輪部に金剛界大日如来の種子「バン」一字を刻んだものが多く見られます。
 基本的には空風輪・火輪・水輪・地輪の四つの部品から成りますが、中には一石で五輪塔を表現したものもあります。

 薮田薬師中世墓、脇方谷内出中世墓のほか、氷見地域で最も多い石造物です。


 薮田薬師中世墓出土板石塔婆
 (高さ38cm)

 板石塔婆は板石に彫られた仏像が、その種子を表す梵字へと変化したもので、造形化は11世紀に始まります。

 氷見周辺地域の板石塔婆は、自然石や割石をそのまま利用したものと、頂部を方錐形にした角柱に種子を刻んだ方錐角柱形(オベリスク状)のものがあります。さらにはやや扁平な方錐角柱形に五輪塔形を陰刻あるいは陽刻したものもあります。

 氷見地域の薮田石製板石塔婆は、上日寺巳石や小境髪塚、脇方谷内出中世墓、大境洞窟例などに代表されます。



 薮田薬師中世墓出土一石一尊仏
 (高さ63cm)

 高さ60cm前後の自然石板石あるいは割石の上半部に如来形坐像を中肉彫するものです。肉髻を高く表した頭部と、肩を張り腹部中央に手を寄せる表現が一般的で、下半身は多くが省略されています。手の位置から弥陀定印とみられ、多くは阿弥陀如来と考えられます。

 14世紀に成立し、15世紀代に盛行、16世紀まで続いています。県西部では薮田石製のものだけでなく、粒の粗い岩崎石・太田石製のものも多く、氷見市を中心に高岡市、射水市に広がっています。

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