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【物語】地域とともに、憧れをかたちに 〜「ホタルの里作り」「つるし飾り ひめの会」三品力さん、美智子さん〜(おらっちゃ広報vol.18)

憧れをかたちにするということ。それは、いくつになっても、大きな幸せを感じられることではないでしょうか。
ここ氷見には、定年後に今までの生活をがらりと変えて、指崎(さっさき)地区の田園地帯にたたずむ古民家に移り住み、自給自足に近い暮らしを楽しんでいるご夫婦がいます。8年前に埼玉県からIターンした、三品力(みしなちから)さんと美智子さんのお二人です。
家の前の畑では無農薬野菜を作り、庭では果樹を栽培して、近くの漁港で魚を釣る。そして、時に地域の人たちと囲炉裏を囲んで、みんなと一緒に自然の恵みに舌鼓。
しかし、そんな楽園のような暮らしも、はじめからそこにあったものでは、決してありませんでした。
それでは、今回は、力さんと美智子さんのお二人の歩みを眺めていきましょう。そこからは、きっと、ほしい未来のつくり方へのヒントが見つかるはずです。

ここには、海も山も、人のやさしさも、ある。
埼玉県川口市出身の力さんは移住する以前は、東京の光学機器メーカーで営業一筋、全国を飛び回る営業マンでした。美智子さんとは社内結婚。いわゆる“転勤族”の暮らしを、長年にわたり二人三脚で送ってきました。
そして、8年間におよぶ金沢勤務を経て、力さんが47歳のときに東京本社へ異動。それを機に、埼玉県の上尾市にマイホームを購入しますが、その後も転勤暮らしは続いていったといいます。
高崎、福岡、そして大阪で単身赴任し、ふたたび東京の本社へと戻ってきたのは、力さんが57歳のときのことでした。定年後は田舎暮らしを、と前々から考えていた力さんは、当時63歳が定年だったところを、60歳で早期退職。
「みんなびっくりしてたよ。あと3年も会社にいられたのにって。でも、早く田舎の空気が吸いたかった。3年なんて、我慢できなかったね」と、快活に笑います。

そうして、40代の頃からあたためていた移住計画が本格的に動き出し、2〜3年、各地を視察して回った末にめぐり会った、この氷見・指崎の地。では、どうしてこの場所を選んだのですかと尋ねてみると、お二人は口をそろえて こう話します。
「やっぱり、自然かな。四季の移ろいがはっきりしている北陸のなかで探していたのだけれど、特に氷見には、海も山もあるから」
力さんは続けます。
「車で10分、15分走れば、すぐに趣味の釣りが楽しめる。理想的なところだと思ったよ」
そして、なんといっても決め手は“人のやさしさ”だったと言います。
「物件を探しにここに来たときも、区長さんが親切でね。移住って人付き合いで失敗する例も結構ある。だから、ご近所さんたちはどういう人かなと思っていたのだけれど、本当にやさしいの、氷見の人って。どこを訪ねてみてもやさしい」

自給的な暮らしを、地域のつながりの輪のなかで。
力さんと美智子さんが暮らしている家は、ケヤキの立派な梁(はり)を持つ古民家で、土地は560坪。三品さんたちが入るまでは8年ほど空き家だったため、家のリフォームだけで3ヶ月かかりました。基礎、屋根、外壁、そして、家の前の通路にまで及ぶ大改修。ひと部屋ずつリフォームが行われるため、その間は寝る場所を転々と移動しながら過ごしたのだといいます。
リフォーム工事の期間中は、家のなかで、まだ少しだけ“転勤族”だったお二人。その苦労の甲斐もあってか、現在のお住まいは、暖炉や囲炉裏からの自然由来のあたたかみがふわりと漂う、うらやましくなるほどの“くつろぎ空間”に整えられています。

そして、お二人は移り住んですぐに、家の前にある畑で野菜づくりをはじめました。出荷用ではなく自家用として、無農薬栽培で何十種類もの野菜が作られています。
「この地区の人たちは、通りかかるとなにかしら言ってくれる。こうしたほうがいいよとか。だから、みんなが畑の先生」

家の周りにある敷地にも、移植した山菜や果樹がいっぱい。庭を実際にめぐりながら、お二人はそれらの名前を教えてくれます。
「ここの家の周りには山菜はもともとなかったから、植えたの。タラの芽、コシアブラ、行者ニンニク、ワサビ、クレソン、ミズナ。あと、ハチク(淡竹)もとれる。タケノコもとれる。果物もとれるよ。サクランボの生るサクラの木も、カキの木もある。ウメとリンゴのふじ・王林、それにブルーベリー、ブドウ、モモ、クリ、カリン…」

ぐるりと家を一周しただけで出会うことのできる、たくさんの“食べられる植物”たち。さらに、食用以外で役に立つ植物も、数多く目にすることができました。
「和紙の材料になるコウゾとミツマタもある。楊枝の原料になるクロモジも。そのほか、ユキワリソウやイワカガミなど山野草もたくさん」
そう話しながら、季節の山野草を眺められる散歩コースも案内してくれます。シンボルツリーには、大きなイチョウの木。お腹だけでなく、目や心も満たしてくれる─、そう、この庭は、まるで“暮らしの宝箱”のよう。

エネルギーも、できるだけ薪(まき)を使います。山から水を引いて、その水を利用した融雪装置も自作したとのこと。
「しっかりと労働しないと。田舎暮らしは、体力勝負」
お二人のその言葉通り、日々、自らの体を動かしてきた積み重ねがあってこその、この“素敵な田舎暮らし”なのですね。

やさしい人たちが暮らす指崎を、多くの人に知ってもらいたくて。
三品さんのお宅では、初春(2月末〜3月初頭)を迎えると「つるし飾り展」が開かれます。たくさんのひな飾りの一種である「つるし雛(びな)」を室内に飾る催しで、毎年、小学生や保育園児たちをはじめ多くの人たちが、この季節の飾りを楽しみに指崎へと足を運んでいます。
「つるし雛」はもともと静岡県の風習で、美智子さんが趣味で作っていたものですが、次第に地域の方たちも、その趣味を一緒に楽しむようになったものです。そして、せっかく作ったのだからと、発表会を兼ねて一般に公開したのがはじまりでした。
畑仕事がひと段落したころに、お茶やおしゃべりを楽しみながら作るこの「つるし雛」は、冬の手仕事文化として、今やすっかり地域に定着。そうして結成された手芸サークル「つるし飾り ひめの会」の代表は、美智子さんが務めています。
ちなみに、2017年の新作つるし雛は「氷見の寒ブリ」。ゆらゆら、気持ちよさそうに宙を泳いでいました。

また、三品さんご夫婦が指崎に移住して最初に実施したイベントには、「タケノコ掘り」があります。イベントをやろうという動機からではなく、とにかく、庭の周りでどんどん生えてくる竹を減らして、竹林を整備しようということで始めたものでした。
「指崎では他にタケノコ掘りイベントがなかったから、始めてみたんだよね。そうしたら、大勢の人が来てくれて」
参加無料のイベントとして告知したら、100名以上もの人たちが訪れてくれたといいます。参加者に怪我がないように、地区の方の応援も頼みながら、保険にも入って実施。今は自治会に運営を引き継いだそうですが、毎年楽しみにしている人がいるという人気のイベントです。

現在、“指崎といえばホタル”と連想されるほど、「ホタルの里」として人びとに親しまれている指崎地区ですが、ホタル舞う風景を守ろうというこの取り組みも、三品さんご夫婦のまっすぐな感動からはじまったものでした。

「この場所に来た時に、ゲンジボタルが10匹前後いるのを見つけてね。用水にいたカワニナ(ホタルの幼虫の餌になる巻貝)を、池を造って育成したら、ホタルがいっぱい出てきたんだ」
力さんは、ホタルに魅了されたときのことを、そのように話します。今や、ホタルの光が谷筋に明滅する初夏のころになると、バスで団体客が押し寄せるほど。しかし、この美しい「ホタルの里」を維持するために、地道にコツコツ、やるべきことはたくさんあります。
例えば、5月の終わりごろに雨が降らないと、池が干上がり、カワニナが減ってしまいます。そこで、池を深くするために底に溜まった泥を柄杓(ひしゃく) ですくったり、ホタルが引っかからないように、家の周りの用水に見られるクモの巣を取り除いたり。
一つひとつ、ひたむきな作業を積み重ね、「タケノコ掘り」や「つるし雛」「ホタルの里」など、ある種の”文化”をつくってきた三品さんご夫婦。その原動力は、一体なんだったのでしょう。力さんは、こう答えます。
「指崎の人はとにかく親切で、こんなに良いところなのに、市内でもあまり知られていなかった。だから、少しでも知ってもらいたいという気持ちだけで」
美智子さんが言います。「のんびりしようと思ったんだけどね」
力さんも続けます。「のんびりじゃなかったんだよね」
そうして、笑い合うふたりの姿からは、都会とは種類の違う忙しさを存分に楽しんいるんだという、清々しい生きるエネルギーが感じられてきました。

仲間を増やしたほうが、田舎暮らしは楽しい。
このように、イベントを含めて様々なことを指崎地区で行ってきた三品さんご夫婦に、「地域で活動しようと思う人が増えるには、どうしたらいいと思いますか?」と尋ねてみたところ、こんな答えが返ってきました。
「まずは仲間をつくらないと。一人ではなにもできない。年配者も若い人も一緒になって、それから、地区のために。氷見のために何ができるかって。食事をともにしたりしていくうちに、ああしたい、こうしたいと、本音が出てくるかもしれないしね」
できることをコツコツと、できないことは地域の方々や仲間たちと補い合って、憧れをかたちにしていく。こういった共創関係の輪を広げていくことこそ、創造的で楽しい人生。そんなことを、三品さんご夫婦からは学ばせてもらったような気がします。
■三品さんのブログ「みしなちからのブログ・田舎暮らしを楽しく」は こちらより
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