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保育を通して願う、氷見の幸せ 〜「速川保育園」上野隆子園長〜(おらっちゃ広報vol.12)

更新日:2017年12月18日このページを印刷する

速川保育園園長・上野先生

撮影:木原盛夫

出逢うもの全てが初めてで、新鮮な驚きと共に物事を吸収していく“乳幼児期”は、人としての最初の一歩を踏み出す、とても大切な時期です。そんな就学前の子どもたちへ、60年もの間、時代を先駆け、同時に、時代に左右されない本質的で普遍的な“心の保育”を実践し続けてきたひとりの女性がいます。「速川保育園」の園長・上野隆子先生。

子ども、大人、地域社会、そして自然。そういった“大きな関係性の輪”の中で、お互いを育み合う。上野先生が保育を通して願うことは、氷見全体の幸せにも通じることでした。

 

速川保育園のスタッフ

撮影:木原盛夫

 

保育園の歩みと、小さな木の椅子の物語。

山里の豊かな緑に囲まれた、小久米にある「速川保育園」。子どもたちはみんな半袖・半ズボンで元気いっぱい。そんな速川保育園の歴史は、戦争の記憶も新しい1956年(昭和31年)にまでさかのぼります。

ここの地域の人たちは本当によく働く人たちで、春の田植えや秋の刈入れ時などの農繁期には、朝早くから野良仕事に出ていたといいます。女性たちは赤ちゃんを“ツブラ(嬰児籠/エジコ、飯詰籠/イヅメコ、とも)”と呼ばれるワラのカゴに入れて、田んぼの土手に寝かしておき、苗を植えてはお乳をあげて、農作業の合間に育児をしていたそうです。

そういう女性たちの暮らしぶりを見て、地域の青年団が託児所を開設。それが、「速川保育園」のはじまりでした。

「そのころの青年団の若者たちの多くは職人さんでした。大工さんや左官屋さん。板葺(いたぶ)き職人もいました。だから、シーソーやブランコなどの遊具や机、椅子も、木ですべて手作り

そう話しながら、上野先生は、使い込まれたひとつの小さな椅子を見せてくれました。

使い込まれた小さな椅子

「この椅子は、木で組んであって、グラグラとゆるんできても繋ぎ目を木槌でトントンと叩けば、またきちっと固定します。60年でも70年でも使える。こういうことも、子どもたちには伝えているんです」

この小さな木の椅子には、今、通っている子どもたちのおじいちゃん、おばあちゃんたちが座っていたのです。そう思うと、物の寿命を延ばすのも、人の知恵と接し方次第だと気付かされます。

その後、昭和40年代になると日本は高度経済成長期を迎え、鍵っ子が氷見でも問題視されるようになります。そこで、1967年(昭和42年)、子どもたちの居場所として「速川児童館」が設立されました。

速川保育園で歌を唄う子どもたち

撮影:木原盛夫

限りなく子どもを満たす“こどもの家“。

このように、地域や時代の変化のなかで、その時どきに応じて“保育の環境”を整えていった上野先生。「こうあらねばならない」と無理をして力むことなく、大切に守り通すものと、柔軟に改めていくものとを、自然の流れの中で選び取っていきます。

上野先生は言います。
「私たちは、“自然に学びながら心と体を鍛えよう”というのを目標にして、子どもたちと接しています」

ここで言う“自然に学ぶ”という言葉には、ふたつの意味が込められています。ひとつは、“自然環境から学ぶ”ということ。そして、もうひとつは、“無理なく自然体で学ぶ”ということ。

「その時代の“自然”でいいんです。やせ我慢して、昔に戻そうということではなくて。私たちが子育てをしたころの“ツブラ”なんて、今はどこにもないですから。今の自然と昔の自然はずいぶん違うんです」

木の工作体験を楽しむ親子

撮影:木原盛夫

そうして、上野先生は「でもね」と、言葉をつなぎます。

「どうしても違わないこともあるんです。それは、いつの時代でも、子どもたちにとって一番難しいのは、“我慢”だということ。小さい頃に我慢というものを身につけないと、自分を中心にしてしか物事が判断できなくなってしまうから、自分よりも弱いもの、自分にとって不快なものに厳しく当たるようになる。命についても、そう。自分ばかりを中心にして考え、他者の存在を損なうようになってしまいます」

だから、「速川保育園」では、年齢別のクラスを設けていないのだと言います。

「人間、縦のつながりがあるのが自然です。ここでは、子どもたちは、年上にも年下にもなれる。その中で、お互いに心を通わせながら、“我慢”というものを覚えていく。そうすると、小さい子を慈しみ、大きい子に憧れるという気持ちが、自然に生まれてくるんですね」

上野先生は、柔らかく笑いながら続けます。
「だから、ここは“こどもの家”。大人は限りなく子どもに近づき、限りなく子どもを認め、限りなく子どもを愛する。そうすると、子どもたちは自然と大人を敬うようになります。それって、心でしょ」

そういった“満たし合う関係性の輪”は、家庭に及び、そして、動物や植物など、命あるもの全てに広がっていきます。

子どもたちが学びあう、木の工作体験

撮影:木原盛夫

 

整えられた環境で、五感をつかって、自然に学ぶ。

「速川保育園」では、マリア・モンテッソーリ(1870~1952年)の教育法が採用されています。この教育・保育方法はイタリアやドイツを中心に世界各国で普及しているもので、「こどもの家方式」とも呼ばれているものです。

この中では、“ままごと”ではなく、自然や日常の中での“本物の体験”が重視されると言います。

“五感の教育”とも呼ばれるこの教育法について、上野先生はやさしく教えてくれました。

「お母さんが食材を刻む音や匂い。子どもは、そういったものに憧れます。ですから、その憧れを肯定して、本物の包丁を使わせてあげるんです。そうすると、自分も大人のようにできるんだという喜びを得るとともに、間違って手を切ったら痛いんだ、危ないんだということも理解していきます。火も同じ。そうやって“本物の体験”を通して、自然な学びを促していくんです」

針と糸を使う体験に用いる「教具」

「こどもの家方式」では、体験を補うものとして、“具体物の提供”を行っていきます。この具体物というのは、主に教具のことを指し、例えば、上の写真のような小さい機織り機などを使います。

「一日中、本当に楽しいですよ。子どもたちから色々な発見を教えてもらえます」
そう言って、先生は針と糸を使う体験について話してくれました。

「布の線上に穴をあけておいて、針と糸をくぐらせながら縫っていく体験です。基本的には、大きい子どもたちを対象にしたものなのですが、小さい子が体験したがることもあります。そこで、その子に線のついた布を渡してみたところ、大きい子どもが、『ぼく、線がない方が最初はやりやすかったよ』って、小さい子に教えてくれている」

そして、力強く続けます。
子どもの発見は、本当にすごい。小さいからできないということはないんです。互いに教え合う関係性だって、自分たちで作れるのですから」

 

鯉のぼりが結んだ、距離を越えた絆。

福島の子どもたちから贈られた冊子
贈られた冊子に描かれた、福島の子どもが描いた鯉のぼり

上野先生は、ひとつの冊子を見せてくれました。そこには、子どもたちが描いた色鮮やかな鯉のぼりの絵とメッセージが添えられた画用紙が、何枚か綴じられていました。

これは、2011年3月に起きた東日本大震災、その直後の“こどもの日”から始まった物語です。

「被災された福島に対して、小さくても何かできることがあるかもしれないという想いで、いわき市の『はと保育園』に、うちの子どもたちと親御さんたちで手作りした鯉のぼりを送ったんです。そして、その保育園には、偶然にもうちの保育園の子どもと同じ名前の子がいました。そうして文通が始まって、小学校6年生になったら福島で会いましょうという約束を交わしました。そこで、絆が生まれたんです

冊子には福島の子どもたちからの感謝の気持ちが可愛い文字で記されていて、その同じ名前の子からは、次のようなメッセージが添えられていました。

  こいのぼりありがとうございました。
   うれしかったです。
   いっぱいわらったよ。

そのメッセージを眺めながら、上野先生は「楽しいですよ、保育の仕事って、本当に楽しい」と言って、微笑みます。その先生の表情からは、子どもたちへの限りない慈しみが、まっすぐに感じられてきました。

やさしく微笑む上野先生

撮影:木原盛夫

 

子どもたちの笑い声が、谷を越えて。

このように、氷見の保育の礎を築いてきた上野先生が、人口が減り、子どもが減り、そして、学校も減り続けていく中で、今願うこと。

「『二十四の瞳』のような小さな学園でもいいから、みんなの力で守っていって、子どもを増やしていきたい」

速川保育園の「稚児獅子舞」1

撮影:木原盛夫

速川保育園の稚児獅子舞2

画像提供:速川保育園

 

この「速川保育園」では、稚児獅子舞をお年寄りの施設で披露するのが恒例だと言います。衣装も、子どもたちのおばあちゃん方による手作り。

「10数年前に作ってもらったもので、それを代々使わせてもらっています。心を込めて作ってくださったものは大事にしたい。施設のおじいちゃん、おばあちゃん方も、泣いて喜んでくださるんですよ」

山の谷間に集落が広がる氷見ですが、子どもたちは、氷見全体の共通の宝。 谷ごとに個性豊かな学校があり、谷筋を越えて活発に交歓し合う。そして、この稚児獅子舞のように、世代も超えて人の和を醸していく。

子どもの笑い声がどの谷筋でも響き渡る─、上野先生が夢見る、そんな氷見の未来の実現に向けて、みんなで知恵を出し合うことから始めてみませんか。

 

 

■「速川保育園」のホームページは こちらより

■氷見市ホームページでの「速川保育園」の情報については こちらより

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